「ゼェ‥‥ゼェ‥‥おかしい‥な‥‥捕まえ
られな‥い」
ポタポタと汗を垂らしながら、京子を追うの
だが、追い切れず逃げられる。
「どうしたのよ、正義。あたしをオカズにした
いんじゃないの?」
余裕で逃げ回る京子。
「う、うるへー‥‥ゼェゼェ」
「やっぱり‥‥」
勇が頭を抱える。
「そう。リーチやパワーに差のない二人にあ
る決定的な差‥‥スタミナさ」
ニヤリと笑う奈緒人。
「それじゃあ、十分の試合を倍の長さにした
り、インターバルやタイムを無くしたのはワザ
と‥‥でも、幾らなんでも三試合分ぐらい
で‥‥」
「先攻で正義を怒らせて全力を出させたのも、
後攻でフェイントをからめてダッシュを連発
させたのも‥‥さ。正義には五、六試合分に
感じてるはずだよ」
「ゼェ‥‥ゼェゼェ‥‥タッチ〜」
辛うじて京子の手に触れるこ上が出来た。
「運動不足じゃないの?日頃から、ちゃんと
身体を鍛えてないから、へばるのよ」
「ゼェ‥‥昨日‥‥成美ちゃんのブルマ写真
‥‥オカズにして‥‥六回‥‥抜いたのが‥
‥ゼェ‥‥まずかった‥‥か‥‥」
「あんたねー、死ぬわよ」
結局、力を振りしぼって京子から奪ったポイ
ントは僅か五ポイントだった。
「後攻、京子。始めっ」
「ゼェゼェ‥‥インターバル‥‥せめてタイ
ム‥‥だけでも‥‥ゼェ」
「駄目だ、インターバルもタイムもなし」
冷たく言い放ち、開始の笛を吹く。
「ゼェ‥‥フリフリ‥‥ブラ‥‥ゼェ」
息も絶え絶えの正義だが、そこからのスパー
トは凄まじかった。
「早いっ!」
その底力に驚く京子。
「馬鹿なっ!スタミナは残ってないはず‥‥」
「フリフリ‥‥ブラ‥‥ブラ‥‥」
口元から涎を垂らし、うわ言のように呟く。
「ひょっとして‥‥エロパワー‥‥」
顔をひきつらせる奈緒人。
「フッ、ならこっちも奥の手を出すまでっ、
行くわよっ!」
そう言って、京子がジャングルジムの角に掴
まると、そのまま身体を左右に振り子のよう
に揺すり始める。
ブィィィン、ブィィィン。
そのパワーにジム全体が横揺れを起こす。
「ゼェ‥‥何をしようってんだ」
対の角で京子の様子を見る正義。
「トールハンマーァァァ!」
振り子運動で大きく反動をつけた京子が、右
足でジムを蹴りつけ、慣性をつけたまま右方
向へと自らを放り投げた。
バシィィィン!
慌てて京子の反対方向へ逃げようとした正義
だったが、バーを掴もうとした右手に走った
電流のような衝撃に思わず手を放してしまう。
「あ、あれ?」
地面に尻もちをついたまま、衝撃の走った右
手をじっと見つめる。
「どうしたの?正義君らしくないよ、落下なん
て‥‥」
駆け寄り、心配する勇。
「あ、いや、ちょっと掴みそこなっただけだ」
右手を何度も開いたり握りしめたりする。
「落下だからペナルティのマイナスニポイント
だぞ」
奈緒人が警告する。
「分かってるって‥‥」
ジムに上る。
「クスッ」
そんな正義を見て京子が笑う。そして再び、
ジムの角に掴まると振り子運動を始める。
ブィィィン、ブィィィン。
ジムが横に揺れ始める。
「よっしゃあ、来いっ!」
「トールハンマーァァァ!」
バシィィィン!
今度は左足で蹴り付け、そのまま跳ぶ。
「よし、今度は‥‥」
左手でバーをしっかり掴もうとするが、ビリッ
と先程と同じ衝撃が左手を襲う。
「正義君!」
バランスを崩して落下、地面に尻もちをつく。
「あ、あれぇ?」
今度は左手を見つめた。確かに電流みたい
な何かに襲われたのだ。しかし、手に火傷の
ような後はない。
「クスッ、どう、トールハンマーのお味は?」
「トールハンマー?」
「トール‥‥確か‥‥神話に出てくる雷神と
かなんかの意味だったような」
「要塞の兵器の名前じゃねぇの?」
「ようするに攻撃としての雷ってことなんだ
ろうだけど‥‥」
「イテッ!勇、人の足踏むなよ」
「あっ、ゴメン」
「ったく、気をつけてくれよ‥‥ん?」
「どうしたの?」
「足か‥‥」
考え込む正義。
「おーい、タイムは無しだぞ。それに正義、
ペナルティ二ポイントな」
楽しそうな奈緒人。
「てめぇ、よーしそれなら‥‥」
ジムに上がり、身構える。
「いくわよっ!」
ブィィィン、ブィィィン。
「トールハンマーァァァ!」
バシィィィン!
「これならどうだっ」
両腕をバーに絡ませ、しっかりと掴む。
ビリッとした衝撃に襲われるが今度は
落ちなかった。
「やった、正義君」
「頭いいだろ、俺」
「頭悪いだろ、お前」
正義が揺れに耐えている間に京子が1レーン
もの差を詰めて迫って来ていた。
「おわあっっっ」
慌てて逃げるが、間に合わず腕をタッチされ
る。
「京子ちゃんの一ポイントなんだけど、正義
が先攻でとった五ポイントとペナルティの二
ポイント二回で、マイナス四ポイント。合計
一ポイント‥‥同点だ。つまり今度、正義が
落下するかタッチされた時点で京子ちゃんの
勝ちだから、そのつもりで」
残り時間は、まだ三分以上ある。正義の負け
は確定的だった。
「あっ、京子ちゃん。ジャージの背中にゴミ
ついてるよ‥‥」
「えっ、本当?」
「取ってやるよ‥‥」
ポンポンと京子の背中を払ってやる正義。
「ありがとう。お礼にトールハンマー使うの
やめてあげようか?」
「いや、どうせトドメをさされるなら、トー
ルハンマーの方がいい‥‥京子ちゃんが
開発したすごい技で敗北したいんだ」
「へぇ、覚悟を決めたようね。それじゃ、お
望み通りの技でトドメをさしてあげるわ」
「ああ、頼むよ‥‥」
言いながらほほ笑もうとする正義の顔は、少
し悲しそうだった。その正義の希望に答え、
今までの反動よりも、更に反動をつけて振り
子運動をする京子。
ブィィィン、ブィィィン。
「いくわよ、トールハンマーァァァあっ?」
‥‥プツンッ。
音とすればこんな音だろう。京子は自分の
背中でこんな音がしたような気がした。ブラの
ホックが外れたのだ。いきなり解放された二
つの丸みがプルンと弾け、京子のバランスを
大きく狂わせる。
「うわっ!」
落下し、尻もちをつく。
「どうしたの京子ちゃん?」 |