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山中リエ子 編1 登場
  キーンコーンカーンコーン・・・・。
   終了の鐘の音がスピーカーから流れると静か
だった学校にたちまち活気が溢れる。
「勇っ・・・・早く行こうぜ」
  ボロボロの黒いランドセルを船乗りがズタ袋を
やるように肩から下げ、少年が廊下を走る。
同学年の中では背の高い方で、短く切られた
スポーツ刈りと白いシャツから覗く日焼けした
肌が健康的だ。
「待ってよ、正義君」
  その少年を追いかける男の子は一見、女の子
とも見えるくらい小柄で、背も低く生白い肌を
している。新品のランドセルはブランド特注品で
その髪形といい、お金持ちのお坊ちゃまだった。
  六年生のクラスがある四階から一階の昇降口
まで一気に駆け降りると、靴を履くのももどかし
そうに校庭へ飛び出した。彼らの行く先は校庭の
隅にあった。

  ジャングルジム。
   細い鉄パイプを組み合わせてできた骨組で、
お祭りのやぐらのような形をしている。登ったり
くぐったりして遊ぶのだが、鉄棒や登り棒のように
体育の授業で使われることのない点や、滑り台の
ように比べて遊ぶ目的のハッキリしない点で人気
がない。遊戯具としてはマイナーどころである。
  二人は校庭の隅々に張られているボールネットに
ランドセルを引っかけると、急いでジャングルジムへ
昇る。昇り始めの早かった正義がタッチの差で勇より
も早く頂上へ辿り着いた。
「俺、オニ!」
「ずるいよ、サヨウナラの礼がまだ終わってなかった
のに」
  不満そうに口元を尖らせる。
「えーっ、勇の方が廊下に近いんだから、ハンデ付け
てくれって」
「うーん分かったよ。五分で一本、交替だからね」
  ふざけながら手を合わせて頼む正義に、勇も折れる。
「正義っ!それに勇君まで、何やってるんだよ」
  ジムの下から声がする。白いYシャツに真っ赤な
スタジャンをピシッと格好良く着込み、これまた
赤い帽子を目深に被った少年が二人を呆れた
ように見上げていた。
「遅かったね、奈緒人君」
「フハハハッ・・・・今日こそ、お前を捕まえてやる
からな」
  能天気に笑う勇と正義に、奈緒人が頭を押さえる。
「二人とも帰りの会の時に委員長の話を聞いて
なかったろ・・・・」
「帰りの会・・・・」
「委員長がどうしたって?」
「教室に残りなさいって言ったのよ!」
  いつの間にか、奈緒人の隣に小さな女の子が
立っている。おチビちゃんで小さなフリルの付い
た可愛らしい服を着る姿は小学校三年生ぐらい
にしか見えないが、名札には六年一組、山中
リエ子と書かれている。
「ゲッ・・・・委員長」
   露骨に嫌そうな顔をする正義。
「どうして勝手な行動ばかりするのよ!」
「俺がなにしようと、俺の勝手だろう!」
   自由行動をモットーとする正義とは、団体生活
の調和を考えるリエ子とはソリが合わないのだ。
「とにかく、早く降りてっ!」
「正義君、また何かしたのっ?」
「心当たりは山ほどあるけどな・・・・」
  二人はゆっくりとジムを降りた。
「・・・・・・・・二人とも今後一切、ジャングルジム
に触ることを禁止します」
  刑を言い渡す裁判官のように冷たく言い放つ。
「なんだとっ!」
「どうしてっ!」
  リエ子に向かって、口々に文句を言う二人の
間に奈緒人入る。
「話を聞けって」
「貴方たち二人には、他のクラスの女子から苦情
がきてるの。特に桧垣君にはジャングルジムで
スカートの中を覗かれたとか、ブラのホックを外
されたとか、それはもう沢山!よって今後一切の
ジャングルジムへの接触を禁じさせていただきます」
「僕が監視してる時はオッケーだから」
  ひとごとのようにサラリという奈緒人。
「ちょ、ちょっと待て!なんでそんな大事なこと、
そっちで決めちゃうんだよ」
「酷いよ、正義君ならともかく何で僕まで」
「ああっ!裏切ったな」
「だって、そうじゃないか、僕がやめたほうがいい
って言ったのに正義君が無理やり・・・・」
「成美ちゃんのパンツを覗こうって言ってたのは勇
だろ!」
「そ、そんなこと僕、言ってないよ!」
「いーや、言いました・・・・グァァァッ!」
   正義の股間に、奈緒人の蹴りが思いっきり入る。
「いいから話を聞けって・・・・二人ともそう言うと
思って、委員長から一つ提案があるんだ」
「てっ・・・・提案?」
   股間を押さえうずくまる正義が、委員長を見上
げる。
「そう、そのジャングルジムで勝負するの。私に
勝ったら、この話はなかったことでいいわ。ただし、
負けた場合は今後一切、女子の着替えや身体
検査の覗き、スカート捲りや強風スポットでの待ち
伏せ、放課後のブルマー漁りやスクール水着の
試着、使用済みのリコーダーやスプーンを嘗める、
等々の破廉恥極まる変態行為を全てやめてもらい
ます」
「お前・・・・最低だな・・・・」
  正義を見下ろしながら、奈緒人が呟く。
「ジャングルジムで勝負って・・・・ジャングルオニ
のこと?だって正義君と山中さんじゃ勝負になら
ないよ」
「やってみなくちゃ分からないでしょ。どう、受ける?
それとも逃げる?」
  挑戦的に正義を見下ろすリエ子。
「やって・・・・やろうじゃねぇか」



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