山中リエ子 編2 ブラックパンツ
「山中さん、そんな格好でやるの?」
  勇がフリフリの付いたロングスカートを指す。
高低差のあるジャングルジムは動き回ると下着
が丸見えになるのだ。
「馬鹿っ・・・・余計なコト言うなって」
  正義は勇の口を押さえるが、リエ子は平然と
している。
「スカートのこと?大丈夫よ、ちゃんと履いてる
もん・・・・ほらっ」
 
 リエ子が自らスカートを捲り上げる。
「なっ!・・・・・・・・なんだぁ」
  ガッカリした声をあげる正義。
「体操着だから平気だもん」
   正義に紺色の体操着を見せつける委員長。
しかし、正義の目はケダモノのような目付きで
委員長のブルマーを視姦していた。普段から
見慣れているとは言え、下着にすら匹敵する
興奮を呼び起こさせる。ましてや自ら捲り上
げる行為と、そのスカートと白いスリップが
クローズアップさせる細い素足や太ももは、
強烈なインパクトがあった。
「‥‥ブルマーじゃ見ても‥‥つまらないよ
‥‥なぁ‥‥」
「正義、目が懲役モノだぞ」
「じゃあ、始めましょうか」
  ジャングルジムに委員長が手をかけると、
正義が急に冷めた目付きになる。
「どうしたの桧垣君?」
「‥‥別に‥‥でも‥‥汚いよなぁ‥‥」
  聞こえるように独り言を呟く正義。
「何よ、文句があるなら言いなさいよ」
 汚いと言われてカチンとくるリエ子。
「そのブルマー」
「ハァ?」
「ジャングルジム法、第一条、ブラックパンツを
禁ずだ。俺が勝ったらその悪しき黒パンを脱い
でもらいたい」
「なに言ってるの?」
「委員長とオニゴッコしたって、全然、俺に
メリットないじゃん。しかも唯一の楽しみは
黒パンが邪魔で見えないし‥‥フェアじゃ
ないんだよなー」
「‥‥‥‥分かったわよ‥‥黒パンでも
白パンでも脱いであげるわ‥‥その代わり
負けたらさっきの条件を卒業するまで守って
もらいますからね」
「オーケーだ‥‥じゃあ始めようか」
  急にやる気になった正義がジャングルジム
に飛びつく。
「七瀬君、ルールブック見せて」
「覚えられる?」
「大丈夫っ、任せといて」
  リエ子が手書きのルールブックを開く。
(ジャングルオニとは、ジャングルジムの上
ならどこに逃げても構わないオニゴッコのこと
です。本来なら二人でやるものではないので、
手でタッチするごとにオニへポイントが加算
される特別ルールを作りました。
  胴体をタッチした場合は2ポイント、胴体
以外の頭手足をタッチした場合は1ポイント、
なおリボンの端、帽子のつば、はみ出した
ベルト、スカートの端など、身体の上からでは
ない衣類だけのタッチは無効です。また故意
にこれらを引っ張ることを禁じ、故意でやった
場合や悪質な場合はペナルティ2ポイント、
もしくは反則負けになります。また暴力的な
タッチやチャージもペナルティ2ポイント、
もしくは反則負けになるので注意してください。
  試合中に地面に落ちた場合はペナルティ
2ポイントです。上着やスカートといった衣類
はペナルティにはなりませんが、傘や杖など
体を支えられるものが地面に触れた場合は
ペナルティ2ポイントになります。
  ここで気をつけて欲しいのは、オニもこの
ペナルティの対象になっているということです。
  ポイントを取った場合やペナルティを受けた
場合、オニはそのスペースもしくはレーンの
真下に降りて、十秒数えてから試合を再開
してください。
  試合は十分で先攻と後攻の五分ずつ、
同点の場合のみ一分ずつのサドンデスを
行って勝敗を決めます)
「ポイントはともかく、ジャングルジムの上
だけでやオニゴッコだよ。捕まえるか、逃げ
切るのかね」
「分かった‥‥簡単よ」
  ウインクしてリエ子がジムに飛び乗る。
「どっちがオニをやるんだ?」
「初めてなんだもん、正義君でいいよ」
  そう言ってジムの外側のバーを伝って移動
しようとするが不慣れなせいか動きがぎこち
ない。
「そんなんで俺と勝負しようなんて言ったの
かよ」
  正義は長い手足を使ってゆうゆうとバーを
伝い、リエ子に接近する。
「委員長っ!正義は腕のリーチが長いから外
側は不利だ、中に入って!」
  奈緒人のアドバイスに、リエ子はジムの内側
に頭から突っ込むが、床すらない空洞の狭い
ジャングルジムの中を這い進むのは、小柄な
リエ子であっても難しかった。
「違う、這い進むんじゃないんだ。脚から中に
入って体を仰向けに平行にしたら、手を使って
ベルトコンベアーみたいに体を前に送るんだ」
  リエ子が慌てて頭を戻し、脚を突っ込むが既
に遅かった。
「はいよ、タッチ‥‥サービスだ」
  正義がポンとリエ子の頭に手を乗せる。
「もう1ポイント‥‥一分たってないのに」
「当たり前だ」
  頭を掻きながら、緩慢に地面に降りる正義。
「イ〜チッ‥‥ニ〜ッ‥‥サ〜ンッ」
三十秒くらいかかって十を数える。
「‥‥この勝負‥‥正義の負けだな‥‥」
  奈緒人が小さく呟いた。



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