「マーメイドターン!‥‥タッチ!」
生徒の数もだいぶ減ったグランドの片隅、
青くペンキの塗られたジャングルジムでリエ
子と正義が激しく動きまわっていた。フト、
正義の動きがピタリと止まる。
「‥‥‥‥」
「‥‥タッチだよ‥‥桧垣君」
「‥‥‥‥」
「桧垣君?」
「駄目だな」
正義がジャングルジムをゆっくりと降りる。
「駄目って‥‥タッチしたんだよ?」
「そうじゃない。技のキレのことだよ」
「技って‥‥マーメイドターンのこと?」
「委員長、ちょっとゴメン」
そう言うと、まだジムにぶら下がっていた
リエ子のおなかを撫でさすった。
「キャ!」
「やっぱり‥‥」
「ど、どうしたのよ。いきなり‥‥」
「当たり前と言えば、当たり前なんだけど
‥‥腹筋が全然なってない」
「腹筋て‥‥おなかの筋肉でしょ、それが
どうしたのよ」
「マーメイドターンの五発目くらいから、回
るスピードが落ちてるんだよ」
「‥‥そういえば、おなかの辺りが痛くなって
回りづらいなと思ったけど‥‥」
リエ子がおなかを軽く押さえる。
「それにジャングルオニの最中は無理な姿勢
からまた違う無理な姿勢に素早く変化するだ
ろ、腹筋が弱いと全体の動きのキレも悪くな
るんだ」
「ジャングルオニ博士みたい‥‥」
「特訓だな‥‥」
「ちょ、ちょっとなんでこんな‥‥」
七瀬小学校には鉄棒のスペースが二つある。
一つは砂場の前に出来た新しい鉄棒。もう
一つは体育倉庫の横にある古い鉄棒。こちら
は日陰な上、砂のクッションがなく、グライダー
などで遊べない為、あまり人気のないスペース
だった。そのスペースの鉄棒にリエ子は逆さま
にぶら下がっている。コウモリと呼ばれる遊び
だが、遊びに見えないのは鉄棒に接している
膝の内側がピンク色のカラー縄跳びで縛られ
ていることだった。 |